塩見綾乃さん|前に出る意思

女子800m、大森郁香さんの次に注目して見続けた選手に塩見さんがいます。
2016年、日本選手権の決勝に残った高校生、そして翌年の2017年には当時の高校記録2分2秒57を出したので、当時から名前は知っていました。

第101回日本選手権、日体大の北村さんの調子がよかったので、大森が優勝するのは厳しいかもしれない…そう思いながら見ていたのですが、2秒台を出していた高校生の塩見さんと川田さんも不気味な存在でした。

レースが始まると、塩見さんと塩見さんは序盤から二人で前に出ます。
「ただの怖いもの知らずの高校生じゃない、前に出るスタイルに慣れている」と直感しました。
200mを通過する頃には「不気味」という感覚は「こいつら危険だ」に変わっていました。
結果的に二人は、1位の北村と4位の大森の間で2、3位に入ります。

同年度の3月、沖縄合宿に参加していた大森さんの練習を見るため読谷村の競技場に行ったとき、塩見さんがいました。
関東学連の中距離合宿でした。
大森さんや川元君のように、関東の大学のOBが参加することはよくありますが、高校生の塩見さんが参加しているとは想像もしていなくて、初め塩見さんと気づきませんでした。
120mを走る塩見さんを見て、私はコーチの松井君に思わず、
「速いな!誰だあれ?」と聞いたのを覚えています。
「あれ塩見ですよ」と松井君。
「あれが塩見か!」と私。
その時の様子がこれです。

膝の使い方がとても上手でしかも高回転。
いい走り方だな、と魅了されたのでした。

もうすぐあれから10年です。
その間、塩見さんはアジア大会に3大会連続出場、世界リレー横浜大会では男女混合2×2×400mリレーで銅メダル、2022年日本選手権優勝、翌年のアジア室内陸上競技選手権大会で銀メダルを獲得するなど、ずっと第一線で走り続けています。

驚異的なのは、日本選手権です。
高校2年の第100回大会から11年連続で決勝を走っています。
これまでの女子800で、11年連続で決勝に進出した選手を私は知りません。
素晴らしい日本新記録が大きく注目された大会もありましたが、私は11年連続決勝進出も同じように、或いはそれ以上に称えたいのです。
スプリント種目で社会人になっても走り続けること自体、容易なことではありません。
しかも好不調の波、怪我などもあった中、毎年決勝に残り続ける…まさに偉業です。
塩見綾乃は日本の女子800m史上最高の選手であると、私は思います。

塩見さんは2024年、高校3年生の時以来、7年ぶりに自己ベストを更新。
その後も自己記録を2分01秒01まで更新しました。
ずっと変わらないのは、塩見さん特有の前に出る意志です。
新しい風景を見ることが出来るのは冒険する者だけだと思います。
塩見さんの前に出る意思は、まだまだこれからも日本女子中距離界を牽引し、新しい風景を見せてくれることでしょう。

【塩見さん、日本選手権ファイナルの軌跡】
第100回 2:07.72 7位
第101回 2:05.47 3位
第102回 2:03.45 2位
第103回 2:03.87 3位
第104回 2:04.24 2位
第105回 2:06.74 6位
第106回 2:04.24 1位
第107回 2:04.21 3位
第108回 2:04.70 4位
第109回 2:03.66 2位
第110回 2:01.67 2位