大森郁香さん|800m史上最も美しい足運び

大森郁香さんが引退したのは2021年のことです。
その時には色々な想いがあり、記事にすることはできませんでした。

奥アンツーカに所属していたころの大森さん

私が好きな走り方は、爪先を前に出すしなやかな走り方です。
足は、接地するだいぶ前から地面と平行になります。
平行を維持したまま落下するので、接地による減速がほとんどなく弾むように見えます。
弾んだ瞬間、爪先が前に出る…この走り方は、とても美しく見えます。
私にとって大森郁香は、日本の800m史上、最も美しい足運びをしていた選手なのです。

と言っても、日大に入ってからの大森さんの走りを初めて見たのは、中距離ではなく駅伝、大学女子駅伝の関東予選でした。
1人だけピョンピョン跳ねるように走っているのを見て「何であんな子が駅伝走ってるんだ?」と思ったのです。
どう見てもロード向きではありませんでした。
その翌年、大学3年生の頃から大森さんは本格的に中距離の練習を開始します。
そして2014年、大学4年生の時に関東インカレ、日本インカレ、日本選手権の3冠を達成。
信じ難い成長速度でした。
特に関東インカレは3秒台で優勝。
久々に女子800mに「記録を狙う」雰囲気が生まれた瞬間であったように思います。
実際、大森さんの好タイム以後、北村夢さん、塩見さん、川田さんなど好記録を出す選手が続々と出てきました。

社会人になってからの大森さんは自己記録を出すことは叶わなかったものの、アジア選手権で3位に入るなど活躍し、2021年まで走り続けました。
800mは、社会人になると極端に競技人口が少なくなる種目です。
そうした現状の中、長く続ける姿を見せ続けたことは、日本の中距離界にとって、とても意義のあることだと思います。
事実、大森さんの背中を見てきた選手、例えば山田はなさんや塩見綾乃さんなど、社会人になっても走り続ける人が増えてきています。
大森さんのように、社会人になっても長く続ける選手が増えることを願っています。

2015年のアジア選手権で走る大森さん